質的研究の理論と会計学

1. はじめに

 どうもこんにちわ。最近辛さの質が変わってきた会計ゾロリです。

(人生がうまくいけばいいのに...)

 質的研究って難しいすよね。なぜなら、メソッドを身につけるのが難しい上に、その背後に様々な「流派」があるからです。質的研究は簡単とか幻想やで↓

 論文読むだけなら、メソッドの経験を身に付けなくてもいいわけで、自分としては論文の背景にある流派について知りたかったのですが...

...まぁ、知識人さんの本とか読むのに、背景知識を押さえておきたいというのも動機の一つです。

(↑ 知識人の皆さんの会話)

 そこで、いい本が出たとの噂(↓)を聞きつけて、勉強してみることにしました。

この本は、思いほか経営学よりの内容で、個人的に読みやすかったです!!


2. 本紹介: 質的研究のための理論入門

 この本で紹介されている「質的研究のための理論」は、ポスト・実証主義の理論です。本の全体像は下のツイートで↓

 全体像は、第1章に書かれているんですが、自分の感想は以下の通りw

 また各パートの説明のまとめも作ってみたので、どうぞ↓

(パートは、4パートです。)


<解釈(主義)的アプローチ>

 ここからは、自分の専攻の経営学(特に)会計学との関連で議論していきます。最初に解釈(主義)的アプローチ。


例えば、本書では財務諸表を分析対象とした解釈学研究として、Francis (1994)をあげています。

本研究は、規範的な解釈学的実務としての監査に対する我々の理解は、科学主義及び監査に関する技術的合理性の出現によって変化させられると主張する。さらに、監査人の判断の特徴に対する監査人の理解は、高度に構造化された監査技術の最近の発展と信頼によって置き換えらると主張する。その結果、監査人は道徳的能力及び批判的思考を失い、それゆえ監査人の資格がある活動に関して道徳的行為者性を失う結果となり、監査はもはや「監査自身」を解釈学的な実務として考えることができなくなる。この主張のために、私は良い行動についての実践知または実務的な倫理思考についてアリストテレス派の議論を引用する。重要なのは、復活する早期の黄金時代があるのではなく、実践知によって監査で「良きこと」を実現するための監査人の潜在能力が、実務の技術的な変化によって侵食されるということである。
(Francis, J. R. (1994). Auditing, hermeneutics, and subjectivity. Accounting, Organizations and Society, 19(3), 235-269.より)

フランシスさんは、監査界隈では有名な人で、かつてこういう研究してたんだなと感心しました。


<構造主義的アプローチ>

 本書の構造主義的アプローチについての言及は1章のみで、会計学についてもほとんど触れられていませんでした。

しかし、(本書には書いてませんでしたが...)何と言っても構造主義の影響は、社会科学においては、ネットワーク分析でしょう。安田(2013)では、構造主義を「一つの現象は、それだけを単独でとらえるべきではなく、周囲の現象との関連においてとらえなければならないという考え」と理解した上で以下のように述べています。

企業であれ、産業であれ、全てにおいて、その対象を周囲から切り離してその内部を覗き込むだけでは不十分なのです。対象の周りに存在する、対象との関わりを持つ存在を同時にとらえて、その関係性の中で、対象の行為の意味や思考を理解していこうとする試みがネットワーク分析です。構造主義は、ネットワーク分析の技法と理論を支える、いわばバックボーンだとも言えるのです。

(上記の本から引用)

ネットワーク分析の社会科学への影響は絶大です。残念ながら、本書にはネットワーク分析に関する記述はなく、弱点の一つといえるでしょう。


<批判(主義)的アプローチ>

 特に会計学と関係があるのは、批判(主義)的アプローチでしょう。

関係ある箇所を引用してみました。

 批判の伝統に基づいた組織研究・マネジメント研究は数年で普及し、批判的なものの考えを指示する定期会議や学術雑誌などの数多くの制度が整備されたえ。これにより批判の伝統は今に残っている。例えば、英国で確認に開催されるCritical Management Studies Conference (CMS)やAcademy of Managementの年次大会前に実施される批判的アプローチの大会、『会計学における批判的視野(Critical Perspectives in Accounting)』や『会計、組織及び社会(Accounting, Organizations and Society)』といった学術誌など。これら全てが批判的研究を促進し、研究発表のための制度的な場を提供していた。

ところがどっこい、同時にこういう批判も書いてあります。

 ここで紹介した学術組織には、批判という用語を使っているものもあるが、本書で使われているよりも希薄な意味で使っている。大会関係者は、批判の概念を拡張的かつ柔軟に使い、より多くのものを取り込もうとしたがために、質的研究であればなんでも含めてしまっているところがある。

史的唯物論の箇所では、Neu, D. (1992). Reading the regulatory text: regulation and the new stock issue process. Critical Perspectives on Accounting, 3(4), 359-388.を紹介しているし、批判理論の箇所では、Power, M., & Laughlin, R. (1992). Critical theory and accounting. Critical management studies, 21(5), 441-465.が紹介されている。このパートの分野には、トニー・ティンカーといった会計学の大物も含まれている。批判(主義的)アプローチは、会計分野において、ポスト・実証主義として中心的な役割を果たしているのかもしれない。


<ポスト諸学派>

 ポスト諸学派のうち、唯一研究例として会計学の例が使われていたのは、(意外なことに)「ポスト・モダニズム」の研究(Preston, A. M., Wright, C., & Young, J. J. (1996). Imag [in] ing annual reports. Accounting, Organizations and Society, 21(1), 113-137.)でした。

 ポスト諸学派の一つであるポスト構造主義の会計研究については、某先生から以下のご意見をいただきました。

誤解して欲しくないのが、この先生は研究の多様性を推奨する先生の一人です。そういう意味では、この分野は今後成長が見込めるのかもしれません。

3. おわりに

 以上で書いたように、この本はこれまでわかりやすい本が少なかった質的研究の基礎となる「流派」について概略的にわかりやすく説明した本である。本書で全体像を理解して、次に各パートごとに学んでいくのがいいだろう。

原著はこれ。

補足情報↑


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