2007年までの空売りの価格規制

1. はじめに

 2007年までに行われていた空売りの価格規制について調べたので、ノートとして残しておきたいと思う。


2. 空売り、メリット・デメリット

 空売り(short sale, short selling)とは、売り主が証券を所有しないで行う売付け、または売り主が借り入れた証券もしくは自己の計算で借り入れた証券の引渡しによって完結する売付け(レギュレーションSHO ルール200(a))である*。

 特に前者(売り主が証券を所有しないで行う売付け)をnaked short sellingといい、後者(売り主が借り入れた証券もしくは自己の計算で借り入れた証券の引渡しによって完結する売付け)をshort sellingという**。naked short sellingにせよshort sellingにせよ、「先に売って後で買う」という基本ルールに変わりないので、2007年以前の価格規制には変わりがない。

 例えば、100円で先に売って後で80円で買戻した場合20円の利益となり、100円で先に売って後で120円で買戻した場合20円の損失となる(下記図を参照)。

 つまり、空売りは「買う前に売って、売った後に買う」取引ということ。このような空売りには(1)市場に対して流動性を供給する、(2)価格効率性に資するといったメリットがある。

 空売りには上記のメリットがある一方で、規制なしでは「売り崩しが可能」という問題点がある。つまり、(1)自ら(空)売りまくることにより、価格を下落させてトレンドを作っておいて、(2)トレンドを信じた投資家が安い値段で株を売ろうとした時点で、(3) 安い値段で株を買戻し、大きな利益を得ることが可能なのである(下記図を参照)。

 このような問題が最初に顕在化したのは、1929年の大恐慌の際である。結果、1934 年証券取引所法10条(a)項に規定を作った(規制の中身はSEC に委任)。

 さらに、1937 年の株価下落を受けて調査実施した結果、SECは、(1)主要銘柄で空売りが下落相場での売付けのかなりの部分を占めており、(2)下落相場では空売りが著しく市場の安定性を害すると結論づけた*。


3. 空売りの価格規制

 前述の調査を受けて、SECは1938 年に34 年法規則3b-3、10a-1、10a-2 を制定した。この際のSECの空売り規制の目的は、①市場の上昇局面では空売りを制限せず、 ②連続したより低い価格での空売りを防止し、これにより市場を下落させる手段としての空売りを排除し、③空売りを行う者が、1つの価格帯のすべての呼び値を使い切り(exhaust)、その後 long の売り 主によってより低い価格が設定されるようにさせることで、下落市場を加速させることを防止することにあった。

<10a-1: ティックテスト@オークション市場>

 オークション市場においてSECは、SEC規則10a-1(a)により、①直近の出来値よりも低い価格での空売り、および②直近の出来値がその直前の価格よりも低い場合には、直近の出来値と同じ価格での空売りが禁止している***。①は上昇局面について定めており、②は下落局面について定めている(下記図を参照)。


<自己規制:ビッドテスト@ディーラー市場>

 オークション市場では出来高による規制が可能だが、ディーラー市場では使えない。そのため、ディーラ市場では買い気配値による規制が行われている。これをビット規制という(下記図を参照)。この方法は、NASDAQ市場では1994年から自己規制として行われている。

4. おわりに

 今日は、空売りの2007年までの価格規制について取り上げた。空売り規制には、メリットとデメリットがありこれを正確に検証する必要があった。このような背景からSECのパイロットテストが実施されたのである。


*石田(2013)を参考にした。

**Wikipediaの記述を参考にした。

***清水(2005)を参考にした。この論文はパイロットテスト期間に出された論文である。

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