SECの規制緩和実験の中間報告書(2006)について

1. はじめに

 SECの規制緩和実験の中間報告書は、利害関係者に対してパイロットテストの中間結果の報告をしている*。


2. 中間報告書

 今回のブログは、8つのRQを6種類、(1)価格規制の一時停止、(2)流動性の向上、(3)価格の効率性、(4)相場操縦は増加したか、(5)交絡の存在、(6)処置による環境の変化に分類して理解を試みてみようと思う(以下の図を参照)。

(1)価格規制の一時停止

 空売りの規制の目的は、相場操縦を減少させることにある。したがって、空売り数が減っていないと話にならない。そのため、RQ1「価格規制は空売りを抑制しているか?」を検証する必要がある。RQ1の結果変数(outcome)は空売りの取引高や残高であった。結果は、「価格規制は空売りを抑制していた」ことを示していた。

(2)流動性の向上

 空売りのメリットの一つは、「流動性の向上」だった。したがってメインの分析としてRQ4「空売りの価格規制は、ダウンティックを減少させているのではないか?」、RQ5「価格規制は、価格の動きを妨げ流動性低下を招いているのではないか?」を検証する必要がある。RQ4の結果変数は、ダウンティックとなっている時間であった。中間報告は「ダウンティックを減少させていたこと」を示した。RQ5の結果変数は、ボラティリティや買い気配の深さであった。中間報告は、「価格規制が流動性を低下させていること」を示した。

(3)価格の効率性

 空売りのメリットの二つ目は、「価格の効率性を向上させること」だった。したがってメインの分析として、RQ6「価格規制を外すことでパイロット対象銘柄の価格はどう反応するか?」を検証する必要がある。RQ6の結果変数は、価格であった。中間報告は「価格規制により価格が過大評価されていたこと」を示した。

(4)相場操縦の増加

 空売りのデメリットの二つ目は、「相場操縦を助長させること」だった。したがってメインの分析として、RQ7「価格規制は、相場操縦を抑制しているか?」を検証する必要がある。RQ7の結果変数は、リターンであった。中間報告は「相場操縦を抑制できていないこと」を示していた。 

(5)交絡の存在

 交絡は内的妥当性を毀損する。したがって、ランダム化の確認を行う必要がある。したがってロバストネステストとしてRQ8「価格規制は大型株と小型株とで異なる影響を持つか?」を検証する必要がある。RQ8の結果変数は、時価総額、取引高、回転率であった。中間報告は、「小型株ほど価格規制の存在によって規制のない他市場に回送されやすいこと」を示していた。

(6)処置による環境の変化

 処置による環境の変化があれば、内的妥当性や構成概念妥当性が毀損されるかもしれない。したがって、処置による環境の変化に対する確認を行う必要がある。SECの中間報告は、RQ2「特定市場で空売りの価格規制が課された場合、規制のない別の市場に取引が流出する効果があるか?」、RQ3「オプションを使うことで空売り規制を回避する行動はないか?」を確認している。RQ2の結果変数は、取引シェアであった。中間報告は、「流出していること」を示した。RQ3の結果変数は、取引の変化であった。中間報告は、「回避行動がないこと」を示した。


3. さいごに

  SECの規制緩和実験の中間報告は、メインの分析では、価格規制は空売りのメリットを毀損し、デメリットを緩和させていなかったことが実証されている。さらに交絡の存在と処置による環境の変化があった点で分析に難が残るが、これは逆に価格規制の重要性を示している結果となった。

 



*清水(2006)を参考にした。

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