Campbellの因果推論 -構成概念妥当性-

目次

1. はじめに 

2. 構成概念妥当性

3. 構成概念妥当性に与える脅威

4. おわりに

 #心理学 #社会科学 #会計学 #因果推論


1. はじめに 

 心理学(やたまに社会科学)では、RubinやPearlの因果推論と並んで、Campbellの因果推論が取り上げられる。このブログでは構成概念妥当性とそれに与える脅威を検討する。主な参考文献は以下の2章・3章の抄訳でござる。


2. 構成概念妥当性

 クックとキャンベルにおいて構成概念妥当性とは、「サンプルする項目が示す高階の構成概念についての推定の妥当性」をさす。

 心理学や教育学でも構成概念妥当性は取り上げられることが多い。クック=キャンベル流の構成概念妥当性も心理学や教育学における構成概念妥当性も概して「測定したいものが測定できているか」という問題を取り上げているが、その取り上げ方も大きく違うので注意した方がいい*。


3. 構成概念妥当性に与える脅威 

 この投稿では(構成概念妥当性が14個もあるので)理解可能性のために、2つに分類してみよう。第一に「操作化の失敗」、第二に「処置による環境変化」である。さらに下では、処置による環境変化を二つに分けている。


 3.1 操作化の失敗

 図では監査分野での例示とともに構成概念に与える脅威(操作化の失敗)を示している。

(1) 構成概念の不適切な解釈(Inadequate Explication of Constructs): 構成概念の適切な解釈に失敗することで、操作(operation)と構成概念との間の関係について不適切な推論を導くかもしれない。 

(2) 構成概念の交絡(Construct Confounding): 操作は通常一つ以上の構成概念を含んでおり、構成概念のすべての記述に失敗することは、構成概念について不完全な推論をもたらすかもしれない。 

(3) 単一操作バイアス(Mono-Operation Bias): ある構成概念の単一の操作化(operationalization)は、因果推定が複雑になり、興味のある構成概念を過小評価し無関係な構成概念も測定してしまう。

(4) 単一手法バイアス(Mono-Method Bias): 全ての操作化が同じ手法を利用している場合(例, 自己報告)、その手法(method)は実際に検証される構成概念の一部である。

(5) 水準による構成概念の交絡(Confounding Constructs with Levels of Constructs): 操作(operations)を最も良く表した構成概念についての推論は、実際の限定的な水準の構成概念を記述するのに失敗するかもしれない。


 3.2 処置による環境変化(1)

 図では監査分野での例示とともに構成概念に与える脅威(処置による環境変化 (1) )を示している。

(6) 処置に敏感な因子構造(Treatment Sensitive Factorial Structure ): 処置の結果として測定の構造が変わるかもしれない。同じスコアリングがいつも利用されている場合、変化が隠されるかもしれない。

(7) 自己報告への反応の変化(Reactive Self Report Changes):  自己報告は、他の条件を一定とすると、実験参加者のモチベーションによって影響を受けうる。割当て後、モチベーションは変化する。

(8) 実験環境に対する反応度(Reactivity to the Experimental Situation): 参加者の反応は処置や測定値だけでなく実験環境に対する関係者の知覚にも影響を与える。そしてその知覚は実際に行われた処置の構成概念の一部である。

(9) 実験者の期待(Experimenter Expectancies): 実験者は妥当な反応についての期待を伝えることによって実験参加者に対して影響を与えうる。

(10) 新規性と撹乱効果(Novelty and Disruption Effects):  実験参加者は新奇なイノベーションや通常のルーティンを撹乱させるものに反応する。


 3.3 処置による環境変化(2)

 図では監査分野での例示とともに構成概念に与える脅威(処置による環境変化 (2) )を示している。

(11) 代替的均一化(Compensatory Equalization): 処置が望ましいものやサービスを提供する場合、管理者、スタッフおよび構成員は処置をしていないものに補償するサービスやグッズを提供するかもしれない。

(12) 代替的競争(Compensatory Rivalry): 処置を受けていない参加者は処置を受けたように見せるよう動機づけらるかもしれない。

(13) 憤慨による士気低下(Resentful Demoralization): 望ましい処置を受けていない参加者は憤慨と失望のあまり、他の参加者よりもネガティブに振る舞うかもしれない。

(14) 処理の普及(Treatment Diffusion): 両方の条件の構成概念の記述をより難しくすることによって、参加者は割当てされていない状態からサービスを受けとるかもしれない。

 

4. 終わりに

 このブログでは構成概念妥当性とそれに与える脅威を検討した。これまで会計学(特に監査論)では、構成概念妥当性は比較的議論されてこなかったが、これから抽象的な構成概念(例えば監査品質)と測定値との関係でより議論されるべきだと思う。


*心理学・教育学における構成概念妥当性の変遷

 構成概念妥当性について(日本語で)歴史的に変遷を追っている村山(2012)に基づいて、変遷をまとめてみた。

だいたいこんな感じ。操作主義と論理実証主義にその源流を見出すことができるあたり、ドキドキする。村山(2012)でいう妥当性とは「測定したいものが測定できているか」の問題である。クックとキャンベル*は、村山(2012)でいう妥当性を「構成概念妥当性=サンプルする項目が示す高階の構成概念についての推定の妥当性」として考えている。

<主な編集履歴>

編集:図の追加(8月18日)

0コメント

  • 1000 / 1000